| 「インクルージョン」とは? |
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本来「インクルージョン」とは、人の生の在り方全般にかかわるテーマですが、ここでは特に「学校教育」に絞って考えてみたいと思います。 インクルージョンとは何か?この問いを考えるとき、「障害のある子どもとない子どもを同じ教室に入れる」という、その行為自体に重きを置いた単なる「方法論」としてではなく、「哲学」として理解することがまず大切です(グレノット・シュワイヤー、フィッシャー、スタウブ、2001)。つまり、その行為の根本にある「信念」「理念」、あるいはその行為を通じて達成しようとしている「ビジョン」(われわれはどんな人間を育てようとしているのか? どんな社会を創ることを目指しているのか?)、そういったことにこそ目を向け、問い直す過程が必要だということです。 インクルージョンという哲学は、「みんな一緒が当たり前」を原則に、障害の有無にかかわらずすべての子どもを分け隔てなく「共に生きる仲間」としてとらえることを出発点としています。つまり、「障害児」「健常児」という恣意的・差別的な区分自体が存在しない考え方であるといえるでしょう(ビクレン、1992)。インクルージョンの前身であり、「健常児」の中に「障害児」という「異なる集団」を再統合しようと試みた「インテグレーション」と呼ばれる考え方とインクルージョンとの決定的な違いがここにあります。インテグレーションでは、障害児集団が、主流とされる健常児集団に統合される際、通常の学級・学校という既存の枠組みに適合することが求められ、つまりそれは、「違いの排除」あるいは「許容できる違い」のみの受け入れを意味し、「障害」という違いを持つ子どもたちにとっては「自分らしい在り方」の否定にもつながる場合が多くありました。それに対しインクルージョンでは、多様性により紡がれた多面的な世界の中で、いろいろな人間が、それぞれに自分らしく共に生きる場所としての社会創りを目指すから、既存の枠組みと構造の方を変え、「人」に合わせて柔軟に調整していくクリエーティビティーをわれわれに求めます。すなわち、「この子はうちの学校でやっていけるか?」を問うのではなく、その子どもの存在と共生を前提に、「どうしたらこの子に合った環境をつくれるか?」という方向に人々の思考とエネルギーを促すのです。 インクルーシブな環境づくりを考えるに当たって、「クラスの中での支援」というテーマは非常に重要なポイントです。インクルージョン教育研究の進む米国では、通常の学級の中での介助員・補助教員の役割と在り方についての研究が多数行われ、その利点と共に、通常の学級で学ぶ障害児に関し「教室内孤島」をつくり上げるという危険性なども指摘されており(ジャングレコ&ドイル、2002)、日本でのインクルージョン実践の際にも、子どもがクラスの一員として有意義に活動に参加できているか? お互いの「仲間意識」「所属感」がはぐくまれているか? そういった問いを繰り返しつつ取り組んでいくことが重要だといえるでしょう。 インクルージョン教育は、日本政府が長年掲げている「ノーマライゼーション理念の実現」といった点からもその重要性が主張されます。障害のある人たちが、みんなと同じく当たり前の暮らしを送れるようにする(ノーマライゼーション理念の実現)ためには、障害に対するネガティブな態度や偏見・差別を打ち砕くことが必要です(バンク・ミケルセン、1980)。何らかの特徴に基づいて子どもたちを分類し、さらにその分類に基づいて学ぶ場所を操作するということが人々の意識にもたらす影響については、研究によっても警鐘が鳴らされるところですが(ダイアモンド&イネス、2001/ターフェル、1969)、研究を待たずしても、隔離される側にわが身を置き換えて想像してみれば、その危険性とダメージは、たとえ一部的にもだれもが想像できるものではないでしょうか。 インクルージョン教育に向けての変革は、決して容易なものではありません(サウザンド&ヴィラ、1995)。「やっぱりうまくいかなかった!」。そう言いたくなるときも必ずあるでしょう。けれども、人の存在を否定する・分離を強いるという行為の隠れた「暴力性」を認め、失敗を言い訳にするのでなく、そこから何かを学びながらよりよい教育を目指す。そんな、ふんどしを「ぎゅっ」と締め直したような気合と覚悟で、子どもたちの未来を、そしてわれわれの未来を守り築いていきたい、そう思うのです。 (文:笠原真帆) [参考文献]
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