|
カンザス大学におけるサークル・オブ・インクルージョンプロジェクト(CIP)での経験から、私たちは乳幼児や就学前の子どもをもった家族が直面しているいろいろな問題を理解できるようになった。彼らは,まさに巨大で複雑な制度の恐ろしい障壁(バリア)について知り始めたところだった。私たちは,「制度を苦しめる子ども」について書こうと思っているのではない。反対に,制度に苦しめられている幼児やその家族について書くつもりだ―― 大抵の場合,働きかけても応えなかったり,さげすむような態度をとったり,要求しても拒否したり,時には残酷でさえあることもある,そんな障害児教育の制度から。
この章では,私たちが出会った子どもたちの実際のストーリー,体系的に収集されたデータに基づく研究結果、そしてプロジェクトとして得られた成果および10年以上にわたって私たちが共に経験してきたことについての深い考察がまとめられている。そしてそれらの内容はすべて,いろいろな分野でこれまでに発表された豊かな経験的/理論的研究の結果とも一致するものであった。たとえば,発達的に適切な幼児教育に関する研究,効果的な早期障害児教育の実践,障害をもつ子どもともたない子供のインクルージョン,幼児教育サービスにおいて家族が持つ役割に関する研究,人々が協力して行う過程の大切さ,制度の変革にまつわる問題,などの研究である。このプロジェクトを通した知識は、時を経て今やプロジェクトに関わる「みんなの知識」となった。それはこのプロジェクトが、幼稚園/保育園におけるインクルージョンを構築し実施するという実際の計画の中で、それに関わる子ども,家族,職員や園全体と直接一緒にやってきた、その時間を通して徐々に発展を遂げてきたからである。長い年月を経て、真に理解しようと努めたそのプロセスの中で、理論と原理と実践が意味を獲得してきたといえるであろう。
CIPプロジェクト (Thompson, Wickham, Ault et. al., 1991; Thompson, et. al., 1993)に関する他で発表された議論との調和を保ちつつ、この章の冒頭「子どもとその家族−道を拓いた人たち」では,このプロジェクトを通して知り合った子どもたちとその家族の中から何人かを取り上げて紹介した。次の「私たちのプロジェクト、そして私たちが信じること」では,CIPプロジェクトの根本に流れる信念と、歴史と活動の概要について述べる。「知識についての私たちの知識―結果の要約」では,私たちがインクルージョン発展のプロセスを理解するために用いてきた方法論を説明するとともに、プロジェクトの成果/研究結果/および私たちの実際の経験を織り込んでいくつかの"テーマ"としてまとめた。最終部「おわりに:模範的プログラムから学ぶこと」では,制度に変革を迫り、"制度を苦しめる"存在として見られがちな、そんな子ども達のためのサービスの重要なポイントとして浮かび上がってきた ー少なくとも私たちは重要であると信じている−いくつかのポイントを簡単に紹介する。
|