モンテッソーリ・クラスルームにおけるインクルージョン |
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モンテッソーリ・アプローチ、あるいはモンテッソーリ・メソッドと呼ばれるこの教育方法は、障がい児教育およびハイリスクな経済環境に暮らす子供たちへの補償教育から発祥しています。この教育アプローチは、20世紀初頭にマリア・モンテッソーリ博士によって生みだされました。イタリアで医学の博士号を受けた最初の女性である彼女は「欠陥のある」子供たちを集めた養護施設での医師としてキャリアを始めましたが、その経験を通して障がいを持つお子さんへの関心を抱くようになりました。そして後年、施設での成功を元にモンテッソーリ博士は障がい児教育のための教師育成プログラムを創立したのです。 モンテッソーリ博士はその後、ローマ内スラム街の極端に貧しい環境で暮らす健常の子どもたちにもその教育方法を応用し、その中で彼女の哲学と方法論をさらに発展させました。このようにして、彼女の業績は次第に世界中の人々の注目を集め、世界各地で採用されるようになったのです。モンテッソーリ博士は、子どもと関わる大人に欠かせない資質・技量として以下の3つを重視していました。
以下に記すものは、障がい児教育、および障がいを持つお子さんのニーズと深く関係があると考えられるモンテッソーリ・メソッド『11の特徴』です。 特徴1:様々な年齢の子どもが混在する異年令混合集団の持つ大きな利点モンテッソーリ法で採用される、年齢の異なる子供たちを一つのクラスに入れる異年令混合集団は、インクルージョン体験を成功に導く手助けとなっています。同じクラスの中に様々な年齢の子供達が混在する事で、必然的に、そのグループの平均的なニーズではなく個々の子供のニーズに合わせられるような幅広い教材を各クラスに準備する事が求められます。そのような環境の中、障がいをもった子供達も、発達レベル的に適切であり、かつ、クラスのお友だちと同じ教材を用いる事が可能となり、結果的にクラスの一員としての適応が促されます。異年齢混合集団は、子供達の中に、同じ「学ぶ者」として互いに支えあう社会の形成を促すと共に、時にはお友達の「先生役」になるという意識を自然に芽生えさせます。 また、異年令混合クラスで学ぶ子供たちは、数年にわたって同じ先生に担任されることになります。例えばモンテッソーリの教室では、大体の子供達が2歳半〜3歳頃から通い始め、それから5〜6歳になるまでの約3年間同じ先生の元同じ教室で生活をします。つまり、先生が教室内の子供達の発達レベルや学習スタイル、家族のサポート体制などについての理解を深める機会を十分に持つ事ができるということです。このことは、特に障がいを持ったお子さんにとっては、新しく担任教師が替わる度にそのお子さん自身や障がいのこと、その他の専門的な知識(ポジショニング/ハンドリング、補聴器の使用法、発作時の対応など)について知るために通常必要とされる「やり直し期間」がないことを意味しています。 特徴:2メンバーとして互いに支えあう「クラス」という集団の中で、それぞれの子供に合った個別化を実現モンテッソーリアプローチの中で提供される一人ひとりの子どもに合わせた個別カリキュラムは、スペシャルニーズを持つお子さんに対してその提供が法律上義務付けられている「個別化されたサービス」という考え方とも一致するものです。教室の中で、それぞれの子供たちは自分のペースで使用する教材や活動のレベルをステップアップしていくことができます。教材の扱い方やそこに含まれた概念を教師が模範実演で子供達に伝授する「レッスン」が、大小のグループ活動の中で複数の子供達に同時に呈示することもありますが、モンテッソーリの教育哲学自体は一人ひとりの子供に対して個別にレッスンを伝授する事の重要性を主張しています。そしてこの教授法は、スペシャルニーズをもつお子さんに対する個別化された教育とインクルージョンの実施にあたって大変有効に機能しています。 特徴3:個別教育計画(IEP)の実施に適したモンテッソーリアプローチモンテッソーリ教材を用いたそれぞれのワークが、レッスンという形で子どもに初めて紹介されるタイミングは、その子供が属する年代の平均的な能力ではなく、一人一人の子どもの発達段階に合わせて決定されます。したがって、たとえ障がいを持つお子さんがクラスの他の子供達とは異なる段階の発達的ニーズやスキルを有していたとしても、そのお子さんだけが特別な存在として浮き立ったり、余計に大人の手をかける存在としてみんなの目に映ることはありません。また、学ばれようとするスキルの種類によって、お友達と一緒にでも、あるいは一人ででもワークに取り組む事が出来ます。 レッスンを子どもに初めて提示する時、ワーク遂行に関わる自然な流れを妨げない範囲で、その遂行の手順を変更する事が可能です。つまり、子ども一人一人のもつニーズや特徴に合わせて、柔軟に対応することのできる自由度があるということです。お子さんによっては、必要に応じて、他の子供達とは違った順番や進行の速度でワークを学習していく事でしょう。 特徴4:機能性を重視したモンテッソーリの環境モンテッソーリ教室では、本物を真似た「おもちゃ」ではなく、できる限り本物を子供達に準備します(例えば本物のナイフでパンを切ったり、床のゴミを本物の箒で掃除したり、テーブルを拭く真似ではなく本当に濡れたテーブルを雑巾で拭いたりなど)。それは、モンテッソーリアプローチの目指すものが、子供たちが実生活に備えての「生きる力」を身につけることだからです。障がい児教育の分野でも、しばしば機能的なスキルの育成に重点が置かれます。「機能的なスキル」とは、現実社会で生きることに役立つ、そしてその人間の充実した生活を促すようなスキル・技能のことを呼びます。またさらに、家庭・学校・地域において可能な限り自立的に、そして生産的に生活するための力を養うようなスキルなども含みます。例えばモンテッソーリのカリキュラムの一部である「日常生活 (Practical Life)」というエリアで子供達が身につけることが期待される力は、まさにそういった機能的な生きる力なのです。 特徴5:自立と意思決定能力の育成自らの行動を自分で決定するという意思決定の機会を日常生活の中で持つ事が、重い障がいのある子供達にとってはなかなか難しいことが様々な研究により報告されています。実際に、障がいの度合いと意思決定機会の多さというものは、反比例するもののようです。お子さんの障がいの程度が重ければ重いほど、意思決定をする機会が少なくなる、という関係 (Guess, Benson, and Siegel-Causey, 1995)。 モンテッソーリアプローチでは、障がいを持つ子供達も含めた全ての子供たちが、自分の意思で選択すること、そして自立した学習者として育つことを様々な方法でサポートします。例えばモンテッソーリの教室では、教師により既にレッスンの機会を与えられた教材でさえあれば、子供達は自分がやりたいと思うワークを自ら選ぶ事が認められ、また奨励されています。すなわち、子供のその日の活動は、教師が立てた授業案などのプランによってあらかじめ決められてしまうようなものではないのです。障がいを持つ子供達も、もちろん他の子ども達と同じように、やりたいと思うものを自ら選ぶ機会が保証されています。そしてそのお陰で、障がいをもっていようといまいと、子供達は皆、毎日本当に意味のある選択をたくさんすることができるのです。このことはまた、お子さんの自立も育てます。なんといっても、園に通い始めたまさに2日目から、前の日に示された教材の中から好きなものを選んで取り組む事が励まされるのですから。やりたいと思うものを自分で選ぶ、その瞬間から、その子どもは自立した学習者としての一歩を踏み出しているのです。また、そのように自由に自らの意思と選択でワークに取り組める時間を、毎日の目まぐるしい生活の流れの中でしっかりと一固まりの時間枠として確保してある事も、子供達が自立した学習者としての経験をじっくり自分のペースで積み上げていくことを助けています 。 特徴6:ルーティーン(日常化された系統的手順)の形成「日常生活 (Practical Life)」エリアにおける学習目標の一つは、順序よく流れる手順に基づいてワークに取り組む習慣を身につけることです。モンテッソーリクラスルームに入ってきたばかりの小さな子供たちは、初めにこの習慣を身につけることが目標となります。教師が実際に教材を用いて子供たちに示すデモンストレーションには、ワークに関わる手順を示すという大切な目的も含まれています。何かに落ち着いて取り組むこと、あるいは時間を有効に使う方法を身につけることなどに困難を伴う子供たちにとって、よく整い系統だった環境は、学習を助ける効果をもたらします。 特徴7:伝統的なモンテッソーリ・デモンストレーションの意義教師により示されるデモンストレーションそのものが、障がいをもつ子ども達にとって大きな教育的価値を持っています。デモンストレーションは、正確に、順序正しく、そして各ステップのキーとなる厳選された最適最小限の言葉を用いながら、最初から最後まで秩序だった手順に従って実施されます。スペシャルニーズ教育分野の中でも、これと似た指導法があります。それは「課題分析」と呼ばれる指導法で、ある行動が学習ターゲットとして設定されると、その始めから終わりまでを小さな行動ステップに分割し、それを一つ一つ鎖のようにつなげてターゲット行動の獲得に導いていくという指導法です。障がい児教育の専門家もモンテッソーリの教師も、新しく学習されるようとする課題を細かく正確な手順に分割することの意義という点において、同じ信念を抱いていると言えるでしょう。 特徴8:モンテッソーリ環境における反復学習の重視とその価値スペシャルニーズを持つお子さんの場合、一つの技能の獲得に際して多くの練習の機会を必要とし、その中で少しずつ進歩していくということがよく観察されます。モンテッソーリの教育哲学では、技能獲得までに必要とされる練習機会の回数は、それぞれの子供によって、また獲得しようとしているスキルの種類によってまちまちであるということを十分に認識しています。だからこそ、それぞれの子どもがどのワークをどれだけ時間をかけて繰り返し取り組むかということに関しての自由度が、日々モンテッソーリ環境の中で保証されているのです。 特徴9:モンテッソーリ教材に組み込まれた『コントロール・オブ・エラー』誤りが生じた時にそれと分かりやすい仕組みになっているモンテッソーリ教材は、障がいをもつ子どもも含めた全ての子供たちの学習の促進につながっています。ワークに取り組んでいる時、何かが正しくない場合、その誤りが分かりやすく目立つ構造になっているため、子供たちは先生の手を借りずに自ら気づいて直すことができます。自ら修正した間違いは、教師に直されたものと比べて再び同じ間違いを繰り返す可能性が低くなります。さらには、自分で間違いを直すことにより、(教師の関わりなどの)外的な強化子を得るのではなく、より内的な強化子(=間違いを直したことにより何かがうまくいった!という経験)が子どもの中に自然に引き起こされます。障がい児教育分野において、外的強化子に比べ内的強化子は常に重視されるている存在ではありませんが、それでも健常なお子さんと同様に障がいを持つお子さんにとっても、そういった内的強化子が大切なものであると私たちは考えます。 特徴10:抽象的な概念を具体的な出来事として表す教材子供たち、特に障がいを持つ子供たちの生きた学習を促すためには、具体的に操作できる教材を準備することが非常に大切になります。モンテッソーリのクラスルームでは、子供たちがそれぞれの学習に用いることができる多種の具体的操作教材がカリキュラムの標準として準備されています。例えば、子供たちを10より大きい数の世界に導く時には、金色のビーズを10個つなげた棒と、1から9までそれぞれの数だけビーズをつなげた棒を用います(11であれば「10の棒」と「1の棒」)。ビーズの棒を操作することで、「数」という抽象的な概念の成立が具体的な経験を通して促されるのです。このようなやり方は、知的障がい、あるいはその他の発達障がいを持つお子さんにとって特に適しているようです。 特徴11:感覚刺激の受容と統合を促す「知覚発育(Sensorial) エリア」「知覚発育エリア」に準備された教材は、様々な異なる種類の感覚刺激に対する受容と統合をそれぞれ個別に磨き発達させるために、その教材が発育を狙っている感覚以外の特徴が目立たないように配慮されています。例えば「ピンク・タワー」は10個のピンクの立方体で構成される教材なのですが、同じ色と形の立方体が塔の上にいくに従って大きさが徐々に大きくなっていきます。すなわち、「大きさ」という感覚刺激だけが異なっているのです。異なる大きさという感覚刺激のみが強調されるようにデザインされたピンク・タワーを用いた、大きさの順に並べ替えるというワークは、子供たちの視覚的な弁別能力を発達させます。また、知覚的なニーズをもつ子ども達にとってこのような「知覚発育エリア」での学習がもたらすメリットは計り知れないものがあります。例えば目がよく見えない子どもであれば、触覚、聴覚、嗅覚などの視覚以外の知覚発達を磨き向上させるたくさんの教材から多大な利益を受けることができるでしょう。 Guess, D., Benson, H.A., & Siegel-Causey, E. (1985). Concepts and issues related to choice making and autonomy among persons with severe disabilities. Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 10, (2), 79-86. モンテッソーリ・アプローチについての詳しい情報:
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